LPには、リズム&サウンドとのコラボで知られる、ミニマル・ダブにおけるルーツ・ヴォーカルのパイオニア、ポール・セント・ヒラーレ、そしてライダー・シャフィークが参加の先行シングル曲が収録される。2人によるセッションは、緊張感とともに彼らの作品に独自の“間”をそこかしこに宿すことに成功している。この“間”、文字通り、サウンドに宿るスペースこそ、彼らが体得したダブの秘密に他ならないのだろう。もはや低音もドラムも鳴らなくても良い、しかしそこにルーツ・レゲエのグルーヴがスペースによって存在する。オーセンティックなバンドによるルーツ・サウンドとも、ニュー・ルーツのヘヴィーなデジタル・サウンドとも、そしてテクノ以降のミニマル・ダブとも違った、新たなスタイルのモダン・ダブの道を宣言したアルバムと言えるだろう。もちろん、ミキシング・エンジニアとしてこの前例のないサウンドを築き上げたBim One Productionのe-muraの手腕も特筆に値するものと言えるだろう。
また本作にはLPとともにボーナス7インチが付属する。ルーツ・レゲエ・シンガー、ラス・ダッシャー参加の楽曲「Into The Light」と、そのダブ・ヴァージョンである。2000年代前半、活動期間そのものは決して長くはないものの、その作品に熱狂的な支持者のいる、この国のルーツ・レゲエ・バンド、カルチベーター、そのヴォーカリストというのが最も知られた活動ではないだろうか、その他にもソロ・客演・プロデュースなどでもルーツ・シーンを中心に活躍したシンガーである。しかし、2021年、本作のリリースを前に彼は残念ながらこの世を去ってしまったのだ。恐らく遺作かそれに近い作品となったが、どこかカルチベイターを彷彿とさせる強力なステッパー・サウンドの楽曲は恐らく、そのファンが最も待ちわびていた作品ではないだろうか。ちなみに本作はこの故ラス・ダッシャー、そしてもうひとりの故人に捧げられている。それはレーベル、ZamZam Soundsの日本での最初期からの紹介者でもあり、Undefinedの良き理解者でもあった下北沢にあったレコード・ショップ、DISC SHOP ZERO店主の故・飯島直樹である。彼が主宰の1人に名を連ねるパーティ〈BS0〉でのライダーとのライヴ企画も含めて、本作に連なる影響元として外せない人物であることは間違いないだろう。
さて、本作は、世界限定700枚のアナログ・レコード・オンリー、リプレスなし、デジタルなしというZamZam Sounds / KHALIPHONICの明確なポリシーの元にリリースされる。日本のダブ・サウンドの新たな夜明けを感じさせる、まさに“定義”の外側の、枠の外側へとむき出しに広がっていく、そんな作品であることは間違いないだろう。text by 河村祐介
1. Victims feat. Paul St. Hilaire / 2. Array / 3. After Effect / 4. Second Floor / 5. Mango Step / 6. Tech In Black / 7. Three feat. Rider Shafique / 8. Untitled
【7inch】
1. Into The Light feat. Ras Dasher / 2. Into The Dub(22may01)<-font>(22may01_06)<-font>(jreggaedub)<-font>
1. Sweet feat.Raspapulaman / 2. Roots feat. Raspapulaman & La Bembera / 3. Sola feat. Kartel Pacifico & La Bembera / 4. Mi Tierra feat. Raspapulaman & La Bembera / 5. Pa'Lante feat. Zam El Caribean & La Bembera
【Digital Bonus Tracks】
1. Siente La Vibracion feat. Zam El Caribean / 2. Juana Maria feat. Jacob DMC & La Bembera / 3. Ella Le Gusta feat. Jacob DMC & La Bembera / 4. Debilidad feat. La Bembera / 5. Sistem feat. Kontent Thug / 6. Open Up(22may01)<-font>(22may01_06)<-font>(22may_reco)<-font>
DJ MIXTAPEシリーズ【Mitime Tape Series】5作目となる今作は、2021年ドイツの《Sichtexot》よりリリースされたMinor Sightsをはじめとする国内外問わず多くのレーベルから楽曲をリリース、ビートミュージックに焦点を当てたレーベルHermit City Recordingsを主宰するなど幅広く活動し世界中から高い支持を得るビートメイカーtajima halの新録DJ mix
ワールド・ミュージックの要素をクラブ・ミュージックに落とし込んだレーベル、WONDERWHEELLからリリースした、BRIAN Jをリーダーに従えるファンキー・ライヴ・バンド、THE PIMPS OF JOYTIMEによるシングル。絶妙なタメの効いたビートにダビーなベースとファンキーなホーンや鍵盤、ギターが一体となるダブ・ファンク・ナンバー「JANXTA FUNK! 」。ROY AYERSをフィーチャしたメロウでソウルフルなステッパー・ダブを披露する「HONEY OF YOUR SMILE」。素晴らしい!
1. Janxta Funk! / 2. Honey Of Your Smile(22apr04)<-font>(22apr04_28)<-font>(dbb)<-font>
現在は京都を拠点とする企画編集グループ「ホホホ座」の一員として活動する松本伸哉と、下北ナイトクラブを母体としたクラブZOO及びSLITSにて企画兼代表を務めていた山下直樹によるユニットTHE FORTUNES IN FURY。UKのサウンドシステム・カルチャーの中で、ポストパンクやニューウェイブ、クラウトロック、ディスコ、レゲエ、ファンク、インダストリアルなどが混然一体となって鳴らされていた時期の空気感を感じられる選曲と、さらには二人の手によってカット&ペースト、エディット、コラージュといった手法を取り入れた革新的MIXCDが、ロボ宙/Last Momentsの最新7インチシングル「TODAY」やガレージロック・バンドThe EViL HooDooのライブ盤リリースを手掛けてきたserach of MANYより改訂版としてリリースとなりました。DJミックスにおけるエディット感覚を拡張させることに成功した傑作です。再リリースにあたってのリマスタリングをPlum Hills BasementのHACCHIが手掛けています。
【推薦コメント】
70-80年代ポストパンク・ニューウェイヴ・クラウトロック・ディスコ&ダブの強力なるメガミックスとでも呼ぶべき、磨き抜かれた選曲のもと、切って貼って切って貼っての80'sエレクトロ・エディット感覚を経てセンス漂いバッチリ編集加工された強力ノンストップ・ミックスCD、32分16秒と41分33秒。こんな代物が2012年にリリースされていたとは…。10年の歳月を経て、あらためてSearch of MANYより世に出される問題作。
(COMPUMA)
それはひとつの発明、というよりも魔法である。エディット、サンプリング、ある種のDJカルチャーのカット&ペーストの作法は、その表層に張り付いた時代を消滅せしめ、音楽のそこかしこに宿るむき出しの魅力を取り出して、新たなる地平を切り開く。本作品も、正にそうした魔術のようなサウンドが結実した、魅惑の作品と言えるだろう。
松本伸哉、そして下北沢の〈ZOO/SLITS〉を運営していた山下直樹によるTHE FORTUNES IN FURY、その作品はポストパンク~ニューウェイヴで満載のレコードボックスをひっくり返し、ビートと断片を繋ぎ合わせ、活力に満ちあふれたフランケンシュタインをこの世に音楽として転生させた。ダブル・ディー&スタインスキーとキング・タビーがカルチャー・クラッシュした、ダビーに、ソリッドに、めくるめくフレッシュなビートの応酬。パンク、エレクトロ、ファンク、レゲエ、ダブ、インダストリアル等々が、単なるサンプルやDJミックスとも異なった、ミクスチャーではなく、文字通りハイブリッドな強度を持って矢継ぎ早にグルーヴを繋ぐ。さまざまな景色へと手をとって聴くものを誘っていく。
ある時、ある場所においては共有されていた感覚を伝搬する、ポスト・パンクの躍動を、DJカルチャーが開けた新たな世界へと投げ込み、その革新性を読解した指南書のようでもある。(OTOTOY編集長 河村祐介)